伝統工芸産業を構成する事業者の経営とその技術継承

概要

本研究は、伝統工芸産業を構成する事業者に注目し、そこにおいての伝統技術の継承と経営の成立との関係について、経営学で議論されるドメイン概念に依拠することで理解することを目的とした。伝統工芸産業である絣織産業で、かつそれぞれドメイン定義と経営状況の異なる久留米絣、弓浜絣、倉吉絣を扱う事業者を対象とした事例調査をおこなった。その結果から、ドメイン定義のテクノロジー次元における生産効率の程度と、提供サービス次元における製品意味づけの程度のバランスと、経営成立可能性の因果関係を説明する仮説的モデルを導いた。

本研究の知見をもとにすれば、伝統工芸産業に携わる事業者は、その経営成立を第一としたとき、伝統技術による製品の生産コストを正当化するだけのより難易度の高い製品意味づけが必要となり、そのための資源が必要となる。技術を更新すればそれによる製品生産コストは下がることになり、それを正当化するだけの製品意味づけの難易度は下がる。その場合、その技術更新のための資源と、そのより難易度の低い製品意味づけのための資源が必要となる。

ただし、この知見は、あくまでも今回取り上げた繊維産業の3事例からのものである。今後はより多様な産業のより多様な事例を対象とした調査を行うことにより、その妥当性を高める必要がある。また、経営成立に求められる製品意味づけ(製品価格正当化)とは具体的に、今回取り上げた冨久織物やごとう絣店によるものだけではなく、幅広い仕方があることが考えられる。今後は製品意味づけとしてどのような仕方があり、どのような仕方が効果的かについて検討する必要がある。

本文は、磯野誠:伝統工芸産業を構成する事業者の経営とその技術継承、地域デザイン学会誌、17、213-231、2021 に掲載。

 

2021年7月6日開催令和2年度研究成果報告会での報告資料:

Trad Ind Tues July 6 2021 HO_compd.pdf (1022362)

中小企業による新製品開発の成功要因ーFEフェーズ管理の効果ー 

ー創造性投資理論に依拠してー

 多くの企業にとって、新たな製品・サービス開発を行い、イノベーションを実現していくことは、重要な成長課題の一つである(Markham 2013)。中小企業もその例外ではない。中小企業は、その規模が限定されているが故に、常に激しい競争環境にさらされており、そのことに対応するために、イノベーションに取り組む必要性がある(清成・他1996)。本研究では、特に重要とされる開発FEフェーズ(Front End Phase:最上流段階、Khurana & Rosenthal 1998)に注目し、またその中小企業の特徴を踏まえればより参考になると考えられる創造性理論に依拠した上で、中小企業による新製品開発の成功要因を明らかにすることを試みた。  

 開発実務家5人および専門家4人を対象としたインタビュー調査からの知見は、次のようにまとめられる。  Lubart & Sternberg (1995)の創造性投資モデルに依拠した場合、中小企業による新製品開発FEフェーズにおける開発成功要因とは、次のように整理できる。

 まずそれは大きく、思考プロセス、知識、思考スタイル、性格、動機づけ、環境の6つの資源からなる。

 思考プロセスに関するものとしては、ビジョンの設定(特に社会的課題の認識に基づく)、ターゲット顧客とコンセプトの明確化、既存知識等の再解釈・比較・組み合わせによるアイデア創出である。

 知識に関するものとしては、事業分野知識の保持・獲得、独自の開発・製造知識・技術、関連事業分野知識の保持・獲得、市場知識の保持・獲得、経営知識の保持・獲得である。

 思考スタイルに関するものとしては、企画型であることと、革新型であること、概略型であること、自律性があることである。

 性格に関するものとしては、成長の希求、忍耐、リスクテイキングの希求と、個人主義である。

 動機づけについてはビジョン追求に伴う内発的動機づけと、儲ける意識に伴う外発的動機づけである。

 そして環境に関するものとしては、1つには経営者や開発主導者のアイデアを受容し展開する組織、あるいは自らアイデアを提案し議論する組織、2つには知識を含む必要資源獲得のための環境であり、それは異業種交流、中間組織を含む。3つには競争環境、そして4つにはリスクテイキングを許容するための収益事業を含む事業ポートフォリオである。  

 ただし以上の今回得られた知見とは、限られた事例を対象とした定性調査からのものであり、その一般的妥当性は確認されていない。今後はこの知見をもとに、中小企業による新製品開発FEフェーズの成功要因に関する概念を操作定義した上でその仮説を設定し、その妥当性を定量的に検討する必要がある。  

 しかし本研究知見のインプリケーションとして、次を指摘できる。まず理論的には、本研究はこれまでに注目されてこなかった中小企業による新製品開発FEフェーズの成功要因を検討したものである。特に本研究ではLubart & Sternberg (1995)の創造性投資モデル応用の可能性を示した。本知見をもとに今後、中小企業による新製品開発FEフェーズの開発成功要因に関する仮説を設定しその妥当性を検討することで、それらを明らかにすることができると考える。

 また実務的には、今後、本研究が扱った中小企業による新製品開発FEフェーズの開発成功要因の妥当性が確認されれば、中小企業の経営者など開発実務家は、その知見をもとにして新製品開発をおこなうことで、その開発をより成功させることができるとことが考えられる。特に、思考プロセスのうちのビジョンを設定することが、創造性発揮のための問題設定となるだけでなく、関連知識の獲得、内発的動機づけとなることが考えられ、またそのビジョンの設定とは、経営者など開発者の企画型や革新型の思考スタイル、および成長の希求といった性格に依存していることが考えられ、それらは開発を成功させるために重要であることが示唆される。 

参考文献 

Khurana, Anil & Rosenthal, Stephen R. (1998), "Towards Holistic "Front Ends" In New Product Development," Journal of Product Innovation Management, 15, 57-74. 

Lubart, Todd I. & Sterngerg, Robert J. (1995) “An Investment Approach to Creativity: Theory and Data,” In: Smith, Ward & Finke (eds.) The Creative Cognition Approach, MIT Press, 271-302. 

Markham, Stephen K. (2013) “The Impact of Front-End Innovation Activities on Product Performance,” Journal of Product Innovation Management, 30(S1), 77-92. 

清成忠男・田中利見・港徹雄 (1996) 『中小企業論』 有斐閣。

FEP Effect 9 Factor Sum 2.pdf (95714)FEP Effect 11.pdf (428664)

まちなかの消費リーダーとは

概要

鳥取駅前中心市街地(まちなか)の商店街の活性化のために求められることとは、まちなか商店街の各個店がその顧客の顕在・潜在ニーズを反映した価値物を提供ないし創造することである。ではそのまちなかの顧客となるような人の顕在的・潜在的ニーズとは何か。本調査は、まちなかに来るあるいは来そうな人(まちなか生活者)を対象とした、定性インタビュー調査により、彼らのまちなかに対する顕在・潜在ニーズを理解することを試みた。インタビュー結果から、まちなか生活者をライフスタイル理論の一つであるVALSモデルに依拠して分類し、ニーズを列挙した。 このまちなか生活者、特にまちなか消費リーダーのニーズ理解とプロファイリングは、今後のまちなかでの新規出店者の、まちなか生活者に提供しようとする商品やサービス(価値物)を企画する際の参考となると考える。 

報告書:まちなか消費リーダーのタイプとニーズ

概要版:まちなかの消費リーダーとは

本調査は、鳥取市中心市街地活性化協議会の委託により行ったものです。